実ニーズからの方式設計
世界最先端の知見を有する暗号研究者グループが、ユーザブルセキュリティ研究者グループの協力により、医療現場との継続的な対話を通じてニーズとシーズを擦り合わせながら高機能暗号方式を設計します。さらに、厳密な数学的安全性証明により強固なセキュリティを保証します。
高機能暗号技術は、機微データを保護しながら高度な情報活用を可能とする有望な技術です。しかし、研究成果の蓄積に比べて実際の利活用事例は依然として限定的であり、その潜在能力が十分に活かされているとは言えません。その背景には、暗号研究者が設計した技術を利用者側へ一方的に提示し、利用者は暗号技術の可能性や制約を十分に理解しないまま活用方法を模索せざるを得ないという構造があります。その結果、利用者のニーズと技術シーズの擦り合わせが十分に行われず、多くの優れた技術が実利用に結び付いていません。本プロジェクトでは、暗号研究者と臨床医が継続的な対話(Dialog)を通じて相互理解を深めながら、「現場で本当に使われる高機能暗号」の実現を目指します。
本プロジェクトでは、医療現場のニーズを単に収集するのではなく、実際の利用者である医療研究者・臨床医自身がプロトタイプシステムの開発と評価を主導します。利用者は技術の受け手にとどまらず、試作・運用・検証を通じて課題を発見し、そのフィードバックを暗号方式やシステム設計へ直接反映します。このような共創的な開発サイクルにより、実ニーズに根ざした高機能暗号技術を創出するとともに、成果をライブラリや共通基盤として整備することで、医療分野にとどまらない幅広い社会課題への展開を可能とし、高機能暗号技術の社会実装を加速します。
世界最先端の知見を有する暗号研究者グループが、ユーザブルセキュリティ研究者グループの協力により、医療現場との継続的な対話を通じてニーズとシーズを擦り合わせながら高機能暗号方式を設計します。さらに、厳密な数学的安全性証明により強固なセキュリティを保証します。
臨床研究・医療情報分野を
開発した技術を再利用可能なライブラリや共通基盤として整備するとともに、成果の展開を進めます。医療分野を起点としながら、多様な分野における高機能暗号技術の社会実装を促進します。
本プロジェクトでは、
患者の診療情報を暗号化したまま匿名化できる高機能暗号です。個人のプライバシーを保護しながら医療データの活用を可能とし、医療現場との対話を通じて実用的な匿名化システムの実現を目指しています。
匿名化暗号は、患者の診療情報を暗号化したまま匿名化できる高機能暗号技術です。通常の匿名化では、一度データを復号してから氏名や住所などの個人情報を加工する必要がありますが、匿名化暗号では暗号化状態のまま匿名化処理を実行できます。これにより、機微な医療情報を取り扱う過程そのもののリスクを低減しながら、安全な医療データ利活用を実現できます。
図に示すシステムでは、複数の医療機関から収集された診療情報提供書を暗号化した状態で単一のデータベースへ集約します。このデータベースには膨大な量の診療情報が蓄積されますが、データベース管理者であっても診療情報の内容を閲覧することはできません。データは常に暗号化された状態のまま安全に保存されます。
研究者が医療データ分析のための情報提供を希望した場合には、その分析目的に応じて、診療情報提供書の内容を暗号化状態のまま匿名化します。例えば、氏名や住所を削除したり、年齢を年代へ変換したりすることで、個人を特定しにくい情報へ変換します。この処理は暗号化状態のまま実行されるため、匿名化処理を行うサーバであっても元の診療情報を知ることはできません。
匿名化後のデータは復号サーバへ送られ、そこで初めて復号されます。そして、分析に必要な情報のみを含む匿名化済みデータとして研究者へ提供されます。この仕組みにより、患者のプライバシーを保護しながら、医療研究や統計分析に必要最低限かつ十分な情報を提供することが可能となります。
本プロジェクトでは、産総研グループが匿名化暗号ライブラリの研究開発を担当し、千葉大グループがそれを用いた診療情報提供書匿名化システムのプロトタイプ開発を進めています。さらに金沢大グループは、ユーザブルセキュリティの知見を活かして、暗号研究者と医療従事者との継続的な対話を支援し、技術シーズと実ニーズの相互理解を促進しています。このような共創的な研究開発サイクルにより、利用者自身が開発と評価を主導し、その知見を暗号方式やシステム設計へ還元することで、実利用に資する高機能暗号の社会実装を目指しています。
特定の条件に加え、指定された地理的範囲に存在する受信者のみが復号できる高機能暗号です。患者情報を安全に共有しながら、救急搬送先の迅速な選定とプライバシー保護の両立を実現します。
空間ベース暗号は、特定の条件を満たし、かつ指定された地理的範囲に存在する受信者のみが復号できる高機能暗号技術です。属性や資格などの条件に基づいて復号可否を制御する従来の属性ベース暗号に対し、空間ベース暗号では「どこにいるか」という物理的・地理的条件も復号条件として扱います。これにより、特定の属性を持つだけでなく、指定された場所に実際に存在する受信者のみが情報を取得できるようになります。
図に示すシステムでは、救急搬送が必要となった患者の情報を暗号化したまま、複数の医療機関へ同時に送信します。患者情報はインターネット等を利用して広範囲に配信できますが、その内容を復号できるのは、搬送可能な地域に存在し、かつ必要な診療科や設備などの条件を満たす医療機関・医師に限定されます。そのため、不特定多数の医療機関へ情報を送信しながらも、患者情報の閲覧を必要最小限の範囲に抑えることができます。
現在の救急医療の現場では、救急隊が候補となる医療機関へ電話やFAXを用いて順番に受入可否を確認することが多く、搬送先が決定するまでに長い時間を要する場合があります。空間ベース暗号を用いることで、患者情報を安全に共有しながら、搬送可能性のある医療機関へ効率的に情報提供できるため、搬送先選定の迅速化が期待されます。これにより、患者情報のプライバシー保護と救急医療の迅速化を両立し、より多くの救命につながることが期待されます。
本プロジェクトでは、産総研グループが空間ベース暗号の研究開発を担当し、千葉大グループが救急医療の現場ニーズに基づいて応用システムの設計・評価を進めています。さらに金沢大グループは、ユーザブルセキュリティの知見を活かして、暗号研究者と医療従事者との継続的な対話を支援し、技術シーズと実ニーズの相互理解を促進しています。実際に、救急搬送先選定という応用課題そのものも、医療現場との対話を通じて明らかになったニーズの一つです。このような共創的な研究開発サイクルにより、利用者自身が開発と評価を主導し、その知見を暗号方式やシステム設計へ還元することで、実利用に資する高機能暗号の社会実装を目指しています。
産総研グループ
実用方式設計・安全性証明・性能評価とライブラリ化を担当します。
医療現場の要件抽出・定義とプロトタイプ化を担当します。
定式化・安全性定義と両グループの橋渡しを担当します。
| 年 | 著者 / タイトル | 発表先 |
|---|---|---|
| 2026 | 林 リウヤ, 山田 翔太「複数認証局属性ベース暗号とWitness Encryptionの関係性の再考」 | SCIS2026 |